COLUMN

新型コロナウイルスのワクチン、本当に安全なのか?

アメリカとイギリスを始め、世界各国における新型コロナウイルス(covid-19)ワクチンの大量接種が始まりました。日本でも厚生労働省のアナウンスによると、「安全で有効なワクチンが承認され、供給できるようになった際には、医療従事者等への最初の接種が2月下旬から始められるよう準備を進めている」とのことで、2月下旬から下記の順に接種を進めていく見込みのようです。

(1) 医療従事者等
(2) 高齢者(令和3年度中に65歳に達する、昭和32年4月1日以前に生まれた方)
(3) 高齢者以外で基礎疾患を有する方や高齢者施設等で従事されている方
(4) それ以外の方

健康に異常のない一般の方への接種は少々先になりそうですが、接種を検討される全ての方が共通して意識されていることは、果たしてそのワクチンは「安全」なのか、という事ではないでしょうか。現在開発されているワクチンの殆どは、通常の開発期間より約1/5も短く、その有効性の持続期間においては、まだ明確に検証されておりません。なので、多くの方が接種に不安を感じているのも当然のことだと思います。しかし、いずれにせよ、ワクチンの存在はコロナウイルスによる多くの人命の犠牲を防ぎ、従来の生活様式を取り戻すためには必要不可欠なものです。

今回のコラムでは、そんなワクチンに対する基本知識や、現在開発されているワクチンの情報、そして、その効果や安全性について現在確認されたものをまとめました。今後の開発動向を見る際や、接種を検討する際のお役に立てればと思います。

ワクチンの開発状況について

(表1)コロナウイルスワクチンの開発状況

■ ワクチンとは?
ワクチンとは病原体から製し、これを人体・動物体に接種して、体内にその病気に対する抗体を生じさせるものを言います。つまり、ワクチンは不活性 ・弱体化されたウイルス有機体を体内に注入し、病気にかかった時と同じ反応を誘発することで、身体にあらかじめ「青写真」を提供します。注入されたウイルス有機体に対し、対抗できる抗体を身体に自動的に作らせること、それがワクチンの役割なのです。

ワクチンは安全なのか?
世界保健機構(WHO)は、ワクチンによって毎年約200万人から300万人の死亡者を未然に防ぎ、約20個の病気を予防することができたと発表しました。また、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、人体に臨床テストを行う前に必ず動物・実験室テストを行うことを規制当局の承認を得るだめの必須条件とし、生産前にもワクチンの安全性を問う厳格な審査を数多く設けています。

ワクチンは他の医薬品と同様、副反応の危険性がありますが、利点の方がより多いとされています。特に児童疾病は、ワクチン開発により大幅に減り、数億人の命を奪ったとされる天然痘は今やその姿を消しました。しかし、このような成功には通常数十年の努力が随伴されます。アフリカでは30年間、ワクチンの接種キャンペーンを実施したことで、やっと去年の8月、アフリカ大陸における小児麻痺(ポリオ)の完全撲滅に成功しました。コロナウイルスも同様ではないでしょうか。専門家は予防接種の行われた後、人々が従来の生活を取り戻すまでには数か月、もしくは数年をも掛かりかねないと見ています。

■ ワクチンはどう作られるのか
バクテリア、ウイルス、パラサイト等、新しい病原体が体内に入ってくると、抗原は免疫反応を起こし、抗体を生成させます。通常のワクチンは、日常でその抗原に触れる前にあらかじめ不活性・弱体化された抗原を体内に注入し、抗体を生成する原理で作られました。しかし、今回のコロナウイルスのワクチンは従来のワクチンとは違う方式で制作されております。

■ コロナウイルスのワクチン、何が違うのか
ファイザー、モデルナ開発のワクチンは、今まででは常用されたことのない「伝令RNA(mRNA)」方式のワクチンだと言われています。このワクチンの最も大きな特徴は、ウイルスを利用し、抗体形成を誘導するといった従来のワクチンとは違い、特定の免疫反応を誘導するよう、ウイルスの遺伝情報の一部を使用するという点であります。つまり、mRNAを利用し、コロナウイルスのスパイクタンパク質を作る遺伝情報を伝達すると、体内の免疫細胞がそれに対応する抗体を作るという方式でございます。

一方、アストラゼネカ・オックスフォード開発のワクチンの作用原理は、ウイルスの遺伝情報の一部を患者に注入するファイザー、モデルナのワクチンのそれとは異なります。アストラゼネカワクチンは、ウイルスベクターワクチンでございます。 ウイルスベクターワクチンとは、アデノウイルスなど感染力のあるウイルスに特定の遺伝子を組み込み人体に投与するものです。投入されたウイルスがスパイク型(コロナウイルスと同様)タンパク質を生産し始めると、人体の免疫体系はこれを威嚇と認識し、攻撃するという仕組みであります。

上記のワクチンは全てイギリスとアメリカで使用を承認されております。メキシコ、チリ、コスタリカではすでにファイザーワクチンの接種が始まり、ブラジルはアストラゼネカ・オックスフォードワクチンの使用を承認しています。我が国では、臨床試験や接種が始まってから時間があまり経過していないことから、今後の動向を踏まえ、どのワクチンを導入するかを決めていく方針を取っています。

■ ワクチンの有効性

(表2)コロナウイルスワクチンの臨床試験における有効率

ファイザーとモデルナmRNAワクチンでは、第Ⅲ相臨床試験の中間報告が発表され、有効率 90%以上という優れた成績がみられています。アメリカ食品医薬品局(FDA)は、コロナウイルスワクチンを承認する条件として、有効率 50%以上、最低でも 30%以上という条件を提示していましたが、それをはるかに上回る有効率がみられたことはすばらしい成果です。なお、ワクチンの有効率 90%というのは「90%の人には有効で、10%の人には効かない」もしくは「接種した人の 90%は罹らないが、10%の人は罹る」という意味ではありません。接種群と非接種群(対照群)の発症率を比較して、「非接種群の発症率よりも接種群の発症率のほうが 90%少なかった」という意味です。発症リスクが、0.1倍、つまり、10分の1になるとも言えます。

ファイザーの臨床試験では、10人が重症のコロナウイルスを発症していますが、 9人は対照群でみられ、コロナウイルスワクチン接種群では1人だけでした。モデルナとアストラゼネカの臨床試験でも、重症者がそれぞれ 11人と2人みられましたが、いずれもすべて対象群だけでした。ただし、重症者数が限られているため、重症化予防効果の評価は今後の課題と思われます。

いずれの臨床試験でも、年齢層ごとの有効性が評価されており、75歳未満までは有意な有効性がみられていますが、75歳以上では対象者数が十分でなく評価できていません。また、基礎疾患ごとの有効性についても今後の課題と考えられます。さらに、これらの臨床試験の観察期間は100~150日という短期間であるため、どのくらいの期間ワクチンによって防御免疫が維持できるかという免疫持続性についての評価がまだできていないことにも注意が必要です。

■ 日本における現況
厚生労働省では、第48回厚生科学審議会感染症部会(2020年10月9日)でコロナウイルスワクチンの優先接種対象者を協議し、医療関係者、高齢者、基礎疾患を有する方を優先することを決定しています。さらに、同年12月23日に開催された第19回新型コロナウイルス感染症対策分科会では、高齢者等が入所・居住する社会福祉施設等において、利用者に直接接する職員も高齢者に次ぐ接種順位とすることが協議されています。

現在、高齢者の年齢基準や対象とする基礎疾患について、関連学会等への意見聴取が行われ検討が進んでいます。基礎疾患については、「新型インフルエンザワクチンの優先接種の対象とする基礎疾患の基準 手引き」(*1)に記載されている慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、慢性腎疾患、慢性肝疾患、神経疾患・神経筋疾患、血液疾患、糖尿病、疾患や治療に伴う免疫抑制状態(悪性腫瘍、関節リウマチ・膠原病、肥満を含む内分泌疾患、消化器疾患、HIV 感染症等)が検討されています。

妊婦については、「妊婦への安全性」が確認されていないため、現時点では優先接種対象者に含めることはできないと考えます。国内外の臨床試験において「妊婦への安全性」が一定の水準で確認された時点で再検討すべきです。小児科領域の慢性疾患は、新型インフルエンザワクチンでは優先接種の対象となりましたが、小児を対象としたコロナウイルスワクチンの臨床試験は実施されておらず、安全性が確認されていないため、今回は対象には含められないと考えます。ただし、小児でも慢性疾患患者は重症化リスクが高いため、このような小児の周囲の方への接種は検討が必要です。

ワクチンの安全性

■ 有害事象と副作用
ワクチンの短期的な安全性は、臨床試験において接種群と対照群における有害事象の頻度を比較することで評価します。有害事象とは、ワクチン接種後に起こる健康上不利益なことですが、接種後にみられた有害事象がすべてワクチンによるものとは限りません。対照群に比べて、接種群で統計学的に有意に高い頻度で有害事象がみられた場合に、ワクチンによる副作用の可能性が高くなります。

ワクチンの副作用とは、ワクチン自体によって誘導された健康上不利益なことまたはそれが疑われるものですが、副作用が全くないワクチンはありません。接種部位には腫脹や疼痛など何らかの局所反応が必ずみられますし、一定の頻度で発熱や倦怠感などの全身症状も一過性にみられます。

コロナウイルスワクチンとして開発されているワクチン、とくにmRNAは分解されやすく長期間細胞内に残存することはなく、また人の染色体に組み込まれることはありませんので、比較的安全性は高いことが予想されます。しかしながら、mRNAを今後繰り返し投与する場合の安全性はまだ明らかになっていません。いずれのコロナウイルスワクチンも人では初めての試みですので、どのような副作用がどのくらいの頻度でみられるのかを理解し、接種後の健康状態をよく観察しておくことが重要です。

臨床テストにおける有害事象

(表3)コロナウイルスワクチンの臨床試験における1回目接種後の有害事象の頻度

(表4)コロナウイルスワクチンの臨床試験における2回目接種後の有害事象の頻度

3つのコロナウイルスワクチンの臨床試験における、1回目接種後の有害事象の頻度を表2に、2回目接種後の有害事象の頻度を表3に、それぞれ年齢別に示します。局所反応では、mRNAワクチンの疼痛の頻度が70~80%台と高いことがわかります。疼痛の中でも、ファイザーのワクチンでは、1回目接種後の約30%、2回目接種後の約15%に、日常生活に支障が出る中等度以上の疼痛が報告されています。

アストラゼネカのウイルスベクターワクチンでも若年者群で疼痛の頻度が高くなっています。mRNAワクチンでは、さらに全身反応の有害事象が高頻度にみられています。とくに、倦怠感、頭痛、寒気、嘔吐、筋肉痛などの頻度が高くなっていますが、これらの症状は対照群でもある程度みられていることに注意が必要です。発熱(38℃以上)は 1回目では少ないですが、2回目の接種後に10~17%みられています。発熱は対照群ではほとんどみられていませんので、ワクチンによる副作用の可能性が高いと思われます。とくに高齢者よりも若年群で頻度が高い傾向があります。

アストラゼネカのウイルスベクターワクチン接種後の発熱は、18~55歳群の1回目で24.5%であった以外はみられませんでした。また、重篤な有害事象は、ファイザーの臨床試験では接種群で 0.6%、対照群で60.5%、モデルナの臨床テストでも両群で1%と差がありませんでした。アストラゼネカの髄膜炎菌ワクチンを対照群とする臨床テストでも、接種群0.7%、対照群0.8%と差がみられていません。

これらの臨床テストの被接種者は白色人種がほとんどで、アジア系の割合が少ないため、人種による副反応の頻度の違いがあることを前提に、国内での臨床テストの安全性の確認が欠かせません。さらに、これらの臨床テストにおける75歳以上の割合は、ファイザー0.4%、モデルナ0.5%であり、アストラゼネカの臨床テストでも70歳以上が6.8%にすぎず、超高齢者への接種の安全性も十分確認されているとは言えません。またさまざまな基礎疾患をもつ方も被接種者に含まれているとは言え、その数は十分ではありませんので、今後さらに基礎疾患ごとの安全性を検討する必要があります。

■ 国内における課題
これまでのコロナウイルスワクチン臨床試験での被接種者数は、数千人から数万人台です。対象者数が限られるため、数万人に1人というごくまれな健康被害については見逃される可能性があります。新しく導入されるワクチンについては、数百万人規模に接種されたのちに新たな副作用が判明することも考えられます。数年にわたる長期的な有害事象の観察が重要です。また、ファイザーワクチンは、イギリスの変異種にも効くといわれています。しかし、保管に-70度のディープフリーザーを要する為、そのフリーザーの手配ができないところが多いのが現状です。関連設備の拡充が今後の課題となっております。

まとめ

ワクチンも他の薬剤と同様にゼロリスクではありません。国の推奨や周りが接種するからとりあえず接種する、というのではなく、接種の利益とリスクを正しく評価し、接種するかどうかをご自身で判断することが必要だと思います。そのためには噂やゴシップではない、正しい情報を適切な発信源から得る必要があり、国や地方公共団体および医療従事者はそのための情報を適度に発信していく必要があると考えます。コロナウイルスの収束がいつになるのかについてはまだ今後の動向を注視する必要があると思いますが、いずれにせよ、有効で安全なワクチンが開発され、以前の安全で快適な生活を一日も早く取り戻せる日が来ることを強く願っています。

(*1)新型インフルエンザワクチンの優先接種の対象とする基礎疾患の基準 手引き、厚生労働省
(表1)第15回新型コロナウイルス感染症対策分科会資料、厚生労働省
(表2、表3、表4)FDA. Vaccines and Related Biological Products Advisory Committee Meeting


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